院長ブログ【読書と仕事の交差点】東野圭吾『聖女の救済』を読んで、美容外科医として感じた“論理と感情”の話
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【読書と仕事の交差点】東野圭吾『聖女の救済』を読んで、美容外科医として感じた“論理と感情”の話
2025.01.08
診療で思うこと
最近、手術の合間や帰宅後に本を読む時間がすっかり習慣になってきました。
きっかけは、今更ながらですが、東野圭吾作品を何気なくまた読み始めたこと。
過去には「白夜行」や「加賀刑事シリーズ」「殺人の門」など、かなりの数を読破していました。
その中でも、今回読んだガリレオシリーズの長編『聖女の救済』は、個人的にも非常に印象深く、また、美容外科医という職業の立場から見ても興味深いテーマが多く含まれていたと感じています。
◆ 東野圭吾という作家の“構造的魅力”
東野圭吾の特徴としてまず挙げたいのは、構造的な小説構成です。
デビューからブレイクするまでにかなり時間がかかったということもあり、著作数が非常に多く、またジャンルも推理小説だけにとどまりません。
一見するとエンタメに分類される作家ですが、実は心理・社会・科学といった要素を精密に織り交ぜながら、読者を最後まで引っ張っていく“設計力”を持っています。
私はどちらかというと、小説の文章にうるさいほうで、明治の文豪や海外の近代文学に親しんできたタイプです。
正直に言えば、東野圭吾の文章自体には強く惹かれる部分はあまりありません。
しかし、ストーリーの運び方、場面の切り替え、登場人物の配置──これらの“構造設計”は、まさに職人技だと感じます。
美容外科の現場においても、「構造を読む」ことが非常に重要です。東野圭吾
例えば、顔のリフトアップを行うときにも、ただ糸を入れるだけでは意味がありません。皮膚、脂肪、リガメント、筋膜──それらの“構造”を理解し、それに合わせてアプローチを変える必要があります。
論理と構造を理解したうえで、そこに感情や美的感覚を乗せる。
まさに、小説と医療が交わる瞬間だと思います。
◆ 湯川先生と“非感情的プロフェッショナル”の共通点
ガリレオシリーズの主人公、湯川準教授。
物理学者という職業柄なのか、常に冷静で、どこか他人事のように事件を捉えている印象があります。
感情よりも論理、推測よりも実験。
そんな彼が事件を通して「人間」に向き合い始めるのが、今回の『聖女の救済』です。
湯川先生の姿勢は、どこか自分にも重なるところがあります。
美容外科医というのは、患者さんの「見た目」や「美しさ」に直接関わる仕事です。
にもかかわらず、私たちが手術中に考えているのは、どの層まで剥離し、どの角度で糸を入れ、血管を避けるかという、極めて冷静で論理的なプロセスです。
患者さんの「こうなりたい」という気持ちは受け止めつつも、私たちはある意味で“感情を切り離す”必要があるのです。
しかし、術後の経過や患者さんの笑顔に触れるたびに、やはりそこには人と人との関係性が存在することを実感します。
湯川先生が今回、論理だけでは割り切れない人間関係や感情の揺らぎに触れていく過程は、
“論理の世界”に生きるプロフェッショナルにとっての「学び」にも感じられました。
◆ 内海薫の人間味と、女性心理の複雑さ
もう一人の重要人物、内海薫。
彼女の存在が、物語に対照的な「感情の視点」を持ち込んでくれます。
面白いのは、湯川が理系的なロジックで事件を見るのに対して、内海はどこか女性心理に敏感でありながら、人間味が薄いようにすら見えること。
表向きは共感力が高そうでいて、実は冷静に物事を見ている──
この“見た目と内面のズレ”は、まさに美容医療の世界でも日常的に目にする現象です。
たとえば、メイクや整形で美しく見えていても、自信のなさや対人不安を抱えている方。
逆に、まったく施術歴がないのに、内面にしっかりとした自信を持っている方もいます。
内海というキャラクターは、そういった「女性の繊細さと冷静さの同居」を象徴しているようで、読んでいてとても興味深かったです。
◆ “美”にも“真実”にも、答えは一つじゃない
『聖女の救済』というタイトルが示すように、本作には「正義とは何か」「救済とは何か」といった哲学的な問いも含まれています。
美容医療もまた、“どこまでが自然で、どこからが作為か”“その変化は誰のためか”といった価値観の揺らぎに向き合う世界です。
私は日々、「美しさに正解はない」と感じています。
ただし、“医学的な美”や“構造としてのバランス”には明確な論理がある。
そこに、患者さんの「こうありたい」という想いをどう融合させるか。
この物語のように、論理と感情、正しさとやさしさが交差するところにこそ、真のプロフェッショナリズムがあるのかもしれません。
◆ 最後に|プロフェッショナルこそ、小説を読むべき理由
『聖女の救済』は、いわゆる“トリック重視”のミステリーでありながら、人間関係や心の機微にまで深く切り込んだ、シリーズの成熟を感じさせる一冊でした。
そして何より、「感情を排して仕事に向き合うプロが、感情とどう向き合うか」というテーマが、私自身の仕事観とも重なり、非常に考えさせられる読書体験となりました。
論理と感情、医学と美学、技術と人間性。
日々の診療のなかで見落としがちな「人間らしさ」を、小説は静かに教えてくれる気がします。
美容外科という冷静さが求められる現場にいるからこそ、時に小説を読むことが、心のバランスを取り戻す手段にもなるのかもしれません。

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